2006年12月23日
【書評】 睡蓮の教室
「2000年前から変わらない中華世界がここにある」
文革の時期に少女時代を過ごした著者の自伝的小説です。著者はオランダ在住で、原書もオランダ語で書かれたものだそうです。「身分の差を越えて培われたかに見えた、知識人階級のお嬢様と下層労働者階級の貧しい娘の固い友情。しかし、混乱の時代にあっては、所詮、仇花に過ぎなかった…」という青春小説と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかしこの作品は、「中華人民共和国は連綿と続く中華帝国の新王朝である」という、中国史に興味のある日本人にとっては当たり前のことを、中華文明に馴染みの無い欧米の読者に伝えるために書かれたものだと思います。
よく言われることですが、毛沢東が率いた中国共産党は、共産主義とはほとんど無縁の私党です。毛沢東は決してプロレタリア革命家などではなく、「初代皇帝」なのです。中華人民共和国の成立は、過去連綿と繰り返されてきた王朝交代に過ぎません。
「乱世を勝ち抜いて新王朝を打ち立てたあと、意に添わぬ知識人は遠慮なく粛清し、統一後は油断のならない存在と化した将軍たちを次々と消し、自分の一族だけの天下にする」「忠実な側近に皇帝の座を譲ろうとも思ったが、やはり一族を後継者にしたい。残念ながら息子は朝鮮戦争で戦死しているので、妻である江青を二代目皇帝にしよう」
毛沢東は、歴代王朝の初代皇帝と変わらないことをしています。老耄に陥った皇帝が、おそく生まれた子供可愛いさに(この場合は最後の妻ですが)皇太子を取替えようとするのは、過去、枚挙に暇がありません。これもよく言われることですが、政治的には意味不明としか見えない文革は、プロレタリア革命や共産党内の権力闘争などという現代的なものではなく、妻を後継者にするために、反対しそうな迂儒どもを片付けておこうという、お家騒動の一種と考えた方が理解できます。
また、主人公である「蓮」が下層の娘である「金」を優等生に仕立て上げようとする動機の裏には、儒教精神があることが容易に読み取れますし、体面を保つことが何より重要と考える中国人の精神構造が実感できるように書かれています。
中国もインドと同様厳しい階級社会である(原書ではカーストという言葉を使っているそうです)ということは、欧米人には意外と知られていませんので、これについても執拗に描写されていきます。中国の場合、階級制はインドほど固定されてはおらず、実力のある人間が這い上がる道は常に開かれている…ことになっています。少なくとも「野に遺賢なからしむ」、つまり有能な人間が埋もれていてはならないという建前があります。
ただし、基本的にはあくまで知識人階級の中での「遺賢」です。現実には、階級を超えて「取り立てられる」のは非常に難しいのです。不遇に悩む「知識人」がいたら、ちゃんと推薦してあげましょう…という意味です。しかも、男性だけが対象(作中でも女の子は「安物」と表現されています)。下層階級の娘を引き上げようすること自体、受け入れ難い奇行なのです。なにしろ、20世紀後半にいたっても、男尊女卑が徹底された、「古代階級社会」なのですから。
そして、夢破れた「金」が、これまた中国社会のもう一つの大きな潮流である暴力の世界に飛び込むのも、哀しいほどにストレートな展開です。かの国で下層階級がのし上がるにはこれしかないということも、歴史が証明しているところです。無論、「金」本人に望みはありません。手を汚してでも獲得したお金で、自分の息子を教育して、知識人階級の仲間入りを目指すという、僅かな可能性にかけるということです。
作中では、その段階にすら至らず、悲劇的な結末を迎えます。中華文明をまったく知らなくても、読み通す頃には、1970年代までの中国の社会構造が感覚的に掴めるようになっていることでしょう。だからこそ、終章の「蓮」の能天気としか言いようのないモノローグにより、途方も無く厚い障壁の存在が読む者の心に訴えかけてくるのだと思います。
他の著作も読みたい度 ★★★☆☆
古書店には売らない度 ★★☆☆☆
これは使える!度 ★★☆☆☆
心が揺さぶられます度 ★★★★☆
(シルフレイ)
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1. 睡蓮の教室/ルル・ワン
著:ルル・ワン 訳:鴻巣 友季子出版社:新潮社定価:2940円(税込み)睡蓮の教室livedoor BOOKSで購入書評データ
読み終わった・・・・やっと。
なんだろう?修行のような読書だった。
辛いけどやらねばならぬ?
それはきっとこの本の内容のせいか・・。
決してつま....
[ 風の谷のナオスケ ] 2007年01月09日 19:41



