2006年08月27日

【書評】 名声のレシピ 

さえない中年男が、突然、金髪女優の恋人に

 さえない中年男が、止むに止まれずお金欲しさに世間を欺く大芝居を打つという話。本文を読むと分かるのだが、この名声のレシピというタイトルは、名声の作り方といった意味である。
 主人公トム・ウェブスターは、さえない風体で職場でも無視され、歴史が何よりも好きな読書家。ニューヨークで働く金融ジャーナリストだが、ある日、トムの無二の親友であるジェイクに、妻エリザベスを寝取られてしまう。
 トムの失意の毎日が突如変わったのは、雑誌編集長からの潜入調査依頼だった。それは無名の人間が手練手管を使って名声を得るまでの経緯を赤裸々に描くというものだ。彼女いわく「わたしは、わたしたちは、あなたにセレブリティの世界を探索していただきたいの。どんな世界か、それによってあなた自身の周囲の人々がどう変わるか。何を失い、何を得るのか、代償に見合った勝ちはあるのか……」という奇妙な頼み事だった。この依頼自体が、マスコミ人から読者に向けた痛烈な意趣返しで、なかなか悪趣味な話なのである。
 そしてトムが考えついたのが、有名女優のアレクサンドラのコバンザメになれば、名声のおこぼれに預かり、そのままトムも有名人になれるという、浅薄なシナリオだった。その企画を表裏なしにすべて説明することで、共犯関係になったトムとアレクサンドラは、一夜限りのディナーを共にする。
 そこからトムの天井知らずの名声と、そして失意の日々が始まっていく。
 似たような小説には、トルーマン・カポーティの「叶えられた祈り」があるが、あれに似た冷笑的な、しかし覚めた目で見た醜悪さがある。だが、このトムはなかなか、お茶目なヤツで、いろいろなことを後悔や反省ばかりをしている。なんだか憎めない“等身大”の主人公なのだ。
 虚像が実像を食うというシニカルな話を、コミカルに仕立てた著者の力量はなかなかだ。惜しむらくは、導入部の50数ページがたいくつなので読み飛ばしてしまおう。これを乗り切れば、主人公トムの怒濤のスクリューコースター人生に、あなたも笑い、涙し、最後にはしんみりとなること受けあいである。

文章の読みやすさ ★★★☆☆
楽しさ、ワクワク感 ★★★★☆
作者への共感度 ★★★☆☆
知的興奮 ★★★☆☆

(担当・S水)

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  • 著:シャロン クラム 訳:池田 真紀子
  • 出版社:新潮社
  • 定価:980円(税込み)
名声のレシピ
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