2006年08月26日

【書評】 自壊する帝国 

「外務省のラスプーチン」佐藤優が成したこと

 本書が描くのは、テレビや新聞が伝え、いつか教科書に載る公式の歴史としての「ソ連崩壊」ではない。ソ連とロシアの政治と学問の世界に深く飛び込み根を張ったサムライ外交官が見た、歴史の裏の人間くさいソ連崩壊だ。
 一貫して描かれるのは、「ロシアと周辺国」、「共産党とKGB」、「共産主義とロシア正教」、「政治家と知識人」、それに「日本の外務省」が加わって織りなす複雑怪奇なソ連の「二重構造」だ。誰もが本音と建て前を使い分け、傍目には何が真実なのか区別がつかない。そんな複雑な状況を自在に切り抜けていく著者の佐藤優の武器が、プロテスタント神学の知識と、ウオトカでロシア人を酔い潰させる酒豪ぶりというのが、また面白い。
 柔道と料理の得意なビジネスマンが気が付かないうちに国際的スパイとして活躍してしまう「白い国から来たスパイ」という小説があったが、本書はまるでそのノンフィクション版という趣だ。そういえば、随所に登場する豪華なロシア料理(キャビアを載せた前菜「ブリンヌイ」、チョウザメの薫製が載ったオープンサドウィッチ「ブッテルブロード」、etc.)の記述が鮮やかで、佐藤優の食道楽ぶりを想像させる。
 情報収集するために対立する勢力の双方に常に情報のパイプを築いていった結果、いつの間にか平和の使者になってしまうクライマックスは感動的ですらある。
 佐藤優はこのあと鈴木宗男と田中真紀子、外務省の暗闘に巻き込まれ、「外務省のラスプーチン」と渾名されて有罪判決を受けるはめになるのだが、この話を書いた前著の「国家の罠」も読みたくなる、迫真のリアル・サスペンスである。

 なおこの本は、Wikipediaで「ソビエト連邦」「プラハの春」「ソ連崩壊」を調べながら読むことで、より楽しめた。

(ともゆき)

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  • 著:佐藤 優
  • 出版社:新潮社
  • 定価:1680円(税込み)
自壊する帝国
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